COLUMN
発達障害の子がすぐ手を出してしまう本当の理由 ― 叱る前に見てほしい3つのこと
※ この記事は、YouTubeで公開した動画の内容をもとに編集したものです。動画とあわせてご覧ください。
友達を叩く、蹴る、押す、物を投げる――。そんな姿を見ると、大人はどうしても焦ります。相手にけがをさせたらどうしよう、すぐに止めなければ。学校や園、放課後等デイサービスの現場なら、相手の子の安全もあり、保護者への連絡が必要になることもあります。
ただ、お伝えしたいのは、手が出た行動をただ叱って終わりにすると、なかなか改善しないということです。もちろん、叩く・蹴る・物を投げるという行動そのものを「いいよ」とは言えませんし、相手の安全を守ることは最優先です。それでも、その子がなぜ手を出してしまったのか、その前に何が起きていたのかを見ないまま、「そんなことしたらダメでしょ」「謝りなさい」「もうしませんと約束しなさい」で終わってしまうと、また同じことが繰り返されることがあります。
この記事では、小学校の現場で通常級・支援級・通級など、さまざまな子どもたちと関わってきた経験をふまえて、発達障害の子がすぐに手を出してしまう理由と、叱る前に見てほしい3つのことについてお伝えします。
先に結論:必要なのは「叱る前に3つを見る」こと
ここで言う「手が出る」は、叩く・蹴る・押す・物を投げるなど、気持ちが言葉ではなく違う行動として出てしまう状態のことです。相手の安全を守ることは最優先ですが、そのうえで必要なのは、強く叱って終わりにすることではなく、①手が出る前に「たまっているもの」を見る、②手が出た後にすぐに追い詰めすぎない、③謝らせる前に気持ちと行動を分けて振り返る――この3つを見ることです。
「突然」に見えて、突然ではない
例えば、鬼ごっこでタッチされた瞬間に叩いてしまう。遊びの中で思い通りにならなかったときに押してしまう。友達に「そんなことしたらダメだよ」と言われて、また物を投げてしまう。片付けを促されたときに急に怒って手が出る。大人から見ると「急に怒った」「突然叩いた」と見える場面です。
でも、前後をよく見ていくと、実は突然ではないことが少なくありません。手が出る前に表情がこわばっていたり、黙り込んでいたり、聞こうとしなくなっていたり、何度も同じことを言われていたり、相手との距離が近くなっていたり。一言がきっかけで爆発したというより、何度か言われるうちに少しずつたまっていって、最後にガッと出ることがあるのです。
また、誰にでも手が出るわけではなく、関係性の深い相手だからこそ出やすいこともあります。朝、昼前、帰る前など、その子が疲れやすい時間帯に出やすいこともあります。つまり、目の前の出来事だけでなく、その子の状態、積み重なっているもの、相手との関係性を見る必要があるのです。
大人の側も、ほんとうに大変です
とはいえ、対応する大人も大変です。手が出た瞬間に「またか」「やめてほしい」と思いますし、けがをさせたらどうしようと焦ります。教員や支援者の立場なら、相手の保護者に連絡しなければならないこともありますし、相手のご家庭への謝罪が必要になることもあります。きちんと止めなければいけない、二度と起こらないように叱らなければいけない、対応していないと思われるかもしれない――そんな気持ちも出てきます。
これは大人が悪いという話ではありません。大人の側にも守らなければならないものがたくさんある、ということです。ただ、その焦りのまま「やめなさい」「何してるの」「ダメでしょ」と強く伝えると、うまくいかないことがあります。刺激が強くなるほど、子どもの反応も大きくなるからです。
無理やり止めようとしたり、その場で長く叱ったり、正論を言い続けたりすると、さらに嫌がったり興奮したり、二次障害につながったりすることがあります。「どうせ自分が悪いんでしょ」と、伝えたいことがかえって届かなくなってしまう。その場で「はい、分かった、もうしません」と言ったとしても、本人の中で整理できていないことがあります。早く終わらせたいから言っているだけ、ということもあるのです。
ここで大事なのは、手が出る子は悪い子なのではなく、感情や言葉の処理で困っているという視点です。行動としては止める必要があります。そのうえで、「この子は困らせようとしている」と見るのか、「この子も困っているのかもしれない」と見るのかで、関わり方は大きく変わります。
叱る前に見てほしい3つのこと
手が出た瞬間だけを見ると、「タッチされて叩いた」「注意されて物を投げた」「負けて怒った」と見えます。でも本当は、その前からコップに水がたまるように、ストレスや疲れ、不安が少しずつたまっていることがあります。
教室にいるだけで疲れやすい子もいます。音や人の多さで疲れることがあるのです。失敗することをとても怖いと感じている子、相手の言葉を強く受け取りやすい子もいます。感情の調整が比較的得意な子は、少し嫌なことがあったときに休憩したり、言葉にして発散したり、誰かに相談したりして、少しずつ出していけます。でも発達特性のある子の中には、自分の中にイライラや不安がたまっていることに気づきにくい子もいます。気づいたときにはいっぱいいっぱいで、最後のちょっとしたきっかけであふれてしまう。
給食のじゃんけんに負けた、手を挙げたのに当ててもらえなかった、友達に一言言われた――大人から見ると小さな出来事で、一気に手が出ることにつながります。だから「なんでそんなことで叩いたの」だけでは説明しきれないことがたくさんあります。すでにコップの水がいっぱいだったのかもしれない。疲れていたのかもしれない。言葉にできない嫌な気持ちがたまっていたのかもしれません。きっかけだけでなく、その前に何がたまっていたのかを見ることが大切です。
手が出たとき、まず必要なのは安全確保です。相手の子を守る、物理的に距離を取る、物を投げているなら危ないものを遠ざける。これが最優先になります。
でも、安全が確保できた後にすぐ長く叱る、理由を問い詰める、みんなの前で謝らせる――そういう流れになると、うまくいかないことがあります。手が出た直後の子は、まだ興奮していたり、悔しさや怒り、寂しさ、悲しさでいっぱいだったりします。その状態で「なんでやったの」「相手の気持ち考えた?」「それ、いいと思う?悪いと思う?」と聞かれても、整理して話すことが難しいのです。むしろ「自分だけが怒られた」「どうせ自分が悪いんだ」「また責められた」と受け取ってしまうことがあります。
だから、まずは少し落ち着く時間が必要です。「今すぐ全部話さなくていいよ」「ちょっと休憩してみよう」「落ち着いてから一緒に考えるからね」と伝える。これは甘やかしではありませんし、指導をしないということでもありません。指導が入る状態をつくるということです。興奮しているときに正論を重ねても入りにくく、落ち着いてからのほうが自分の行動を振り返れます。
手が出たとき、つい「謝りなさい」「もうしませんと約束しなさい」と言いたくなります。もちろん、相手に嫌な思いをさせたこと、傷つけたことに向き合うのは大切です。ただ、形だけの「ごめんなさい」で終わってしまうと、次の行動につながりにくいことがあります。大事なのは、本人の中で何が起きていたのかを一緒に整理することです。
落ち着いた後に「さっき何が嫌だった?」と聞きます。「あの言葉が嫌だったんだね」「負けたのが悔しかったんだね」「片付けの時間だよと言われたとき、まだ遊びたかったんだね」と気持ちを受け取ります。ここで「それはいい」「それはダメ」とすぐに評価をしないことが大切です。気持ちは気持ちとして受け止めるだけで大丈夫です。
そのうえで「その気持ちがあって、物を投げたんだね」「叩いてしまったんだね」と行動を確認します。そして「今思うと、その行動はどうだったかな」と一緒に考えます。落ち着いていれば「よくなかった」「相手が嫌だったと思う」と言えることもあります。黙っているなら、まだ気持ちが整理できていないのかもしれません。そんなときは「今はまだ考えるのが難しいかな。少し後でまた話そっか」でいいと思います。無理にその場で言葉を出させるよりも、本人が自分の気持ちと行動を分けて見られることのほうが大切です。
そこまでできてから、「次に同じようなことがあったら、どうしたらよかったかな」を考えます。「やめて」と言う、先生を呼ぶ、1回離れる、休憩する――その子ができそうな次の行動を一緒に探します。手が出る行動を減らすには、「叩いちゃダメだよ」と行動を減らすだけでは足りません。代わりにどうしたらいいのか、次の一歩を教える必要があるのです。
謝罪は、その子の状態と関係性に合わせて
謝罪についても、その子の状態や関係性に合わせて考えていきましょう。すぐに謝れるなら、謝ればいいと思います。でも、できない状態なのに無理やり謝らせても、形だけになりやすいです。大事なのは納得感です。相手の子の気持ちも大切にしながら、その子自身も「今回は何が起きて、自分は何をして、次はどうしたらいいのか」を少しずつ整理していくことです。
大人が全部仲介する段階もあれば、少し見守りながら子ども同士で話す段階もあります。その子たちの関係性や発達段階に合わせて、大人が関わる量を調節していくことが大切です。
「問題行動」ではなく「気になる行動」として見る
私たちはよく「問題行動」という言葉を使います。でも、その言葉を使うと、まるでその子自身が問題であるかのように見えてしまうことがあります。だから、大人が「気になる行動」として見ていくことも大切だと思っています。
もちろん、叩く・蹴る・物を投げる行動は止めなければなりませんし、相手の安全は守らなければなりません。でも、その行動を見て「この子が問題だ」と決めるのではなく、「この行動が出るほど、この子の中では何が起きているんだろう」と見ていく。その視点が、支援の出発点になります。
まとめ
発達障害の子がすぐに手を出してしまうとき、必要なのは、ただ強く叱ることではありません。もちろん安全確保は最優先で、相手の子を守ることも大切です。そのうえで、叱る前に見てほしいことは3つでした。
- 手が出る前に「たまっているもの」を見る
- 手が出た後に、すぐに追い詰めすぎない
- 謝らせる前に、気持ちと行動を分けて振り返る
手が出る子の多くは、やりたくてやっているわけではありません。本当は仲良くしたい、怒られたくない、ダメだと分かっている――そういう子に、私は何度も出会ってきました。それでも、感情がコップいっぱいになったとき、言葉ではなく違う行動として出てしまうことがあります。だからこそ、「本当はしたくないけれど、やってしまう。どうしたらいいんだ」と困っているのかもしれない、という視点から関わることが大切です。
感情を受け止めることは、手が出る行動を認めることではありません。感情を受け止めたうえで、行動は一緒に振り返る。この順番を大切にしてみてください。
この記事を書いた人
村井 泰志(ハリー先生)
株式会社ひといろは代表・発達支援アドバイザー。元小学校教員(8年)。特別支援学級・通級指導教室などで2,000人以上の相談・支援に携わる。プロフィールを見る →

