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ADHDの子に「早くして!」が効かない理由 ― 動き出しやすくなる声かけ3つ
※ この記事は、YouTubeで公開した動画の内容をもとに編集したものです。動画とあわせてご覧ください。
「早くして!」と言いたくなる場面、ありませんか。
学校なら、朝来て提出物を出して、連絡帳を出して、荷物を片付けて、1時間目の準備をする。移動教室があれば、それまでに準備をして移動しなければいけません。家庭でも、朝の着替え、歯磨き、ランドセルの準備、宿題、片付け。毎日のことだし、やることは分かっているはず。昨日も同じことをしたし、昨日も言った。それなのに、子どもはなかなか動かない。「早くして」「もう何回言ったら分かるの?」「昨日も言ったよね」と言いたくなりますよね。
この記事では、小学校の現場で通常級・支援級・通級など、さまざまな子どもたちと関わってきた経験をふまえて、ADHDの子に「早くして」が効かない理由と、動き出しやすくなる声かけのコツについてお伝えします。
先に結論:必要なのは「動き出せる形」に変えること
ADHDの子に必要なのは、もっと強く言うことではなく、「動き出せる形」に変えることです。具体的には、①「早くして」ではなく「何に困ってる?」から始める、②「全部やって」ではなく最初の一歩だけを渡す、③声かけを増やすより動ける仕組みをつくる――この3つです。
「早くして」は、大人にとっては「急いでほしい」という意味の言葉です。でも子どもからすると、何をどこからどうやって始めたらいいのかが見えないまま、ただせかされている状態になることがあります。すると、動くどころか、余計に固まったり、反発したり、聞いているふりだけになったりすることもあるのです。
私自身、「早くして」を言い続けていた時期があります
これは私自身も現場で経験したことです。特に朝の時間は本当に余裕がありません。提出物も見たいし、子どもの様子も見たいし、1時間目の準備もある。大人の側にやらなければならないことが、朝はたくさんあります。だから、なかなか動かない子を見ると焦りますし、イライラもしました。「何回言ったら分かるんだ」「わざと困らせているのかな」と思ってしまうこともあったのです。
でも同時に、その子自身も毎回困っているように見えました。怒られているのに、次の日もまた同じところでできない。本人も苦しそうにしている。その姿を見て、これは単に「やる気がない」という話ではないのだろうな、と考えるようになりました。
言葉の内容ではなく「感情」だけが届いていた
うまくいかなかったのは、何度も強く言う声かけです。「早くして」「あと何分だよ」「さっきも言ったでしょう」。こういう言葉を重ねるほど、その場では少し動くこともあるのですが、だんだんこちらの言葉が届かなくなっていく感じがありました。
子どもからしたら、自分にとって苦しい言葉を何度も言ってくる人の声を、正面から受け取り続けるのはしんどいことです。私たち大人も同じで、自分が責められているように感じる言葉は、できるだけ受け取らないようにしたくなります。子どもも同じなのです。
その結果、私が本当に伝えたかったこと――「今これをしたら、あなたが楽になるよ」「ここで困っているんだよね」――は伝わらなくなっていきました。子どもに伝わっていたのは、言葉の内容ではなく、私の焦りやイライラ、不安という感情だけだったのです。これでは子どもは動きません。むしろ「また怒られている」「せかされている」と感じて、さらにやらなくなっていくことがあります。
「動かすための声かけ」から「知るための声かけ」へ
そこから大切にするようになったのは、動かすための声かけではなく、「何に困っているのかな」を知るための声かけです。「どうしたらこの子が動くのかな」ではなく、「この子の中では何が困っているんだろう」「つまずいているポイントはどこだろう」と見るようにしました。
すると、理由が見えてきます。周りに気になるものが多すぎるのかもしれない。やることが多すぎて、何から始めたらいいか分からないのかもしれない。そもそもやり方が分かっていないのかもしれない。終わりが見えなくて不安なのかもしれない。理由が分かると、声かけも決まってきます。
動き出しやすくなる声かけ3つ
子どもが動かないとき、つい「早くして」と言いたくなります。でもこの言葉は、子どもが何に困っているのかを見つける言葉ではなく、感情を伝える言葉になりやすいのです。言いたくなる気持ちはよく分かります。時間がないし、周りの子も動いているし、次の予定もある。それでも一度立ち止まって、「この子はなぜつまずいているんだろう」と見ることが大切です。
例えば朝の準備で困っている子がいたら、「早くして」と言う前に、「今、何で困っているんだろう」「何から始めたらいいか迷っているのかな」「やることが多すぎるのかな」「どれを出すか分からないのかな」と、困っている場所を一緒に探します。大事なのは、問い詰める感じにしないことです。「なんでできないの」ではなく「何が難しい?」「どこで困ってる?」。「こうしたらいいって分かってるでしょ」ではなく「一緒に確認しよう」という声かけです。
ADHDの子の「動けなさ」は、私の感覚で言うと、頭の中にやることが散らかっている感じに近いと捉えています。分かっているけれど、選べない。やることはあるけれど、どれからやったらいいか決められない。目の前の刺激に引っ張られて、今やることに意識が戻ってこない。そんな状態の子に「早くして」と言っても、情報が増えるだけになってしまいます。
ADHDの子は、やる気が全くないわけではなく、「始めること」が難しい場合があります。始める、続ける、切り替える、順番に進める――こうした力を実行機能と言いますが、この部分でつまずきやすい子がいます。だから全部を一気にやらせようとすると、「できない」となってしまうのです。
例えば「朝の準備をして」には、たくさんの行動が入っています。体操服、ランドセル、連絡帳、宿題、筆箱、水筒の準備。子どもによっては、この時点で頭がいっぱいになって「もう何をしたらいいか分からない」となります。
だから「朝の準備をして」ではなく、「連絡帳をランドセルから机の上に出そう」。「片付けて」ではなく、「床に落ちている鉛筆を、筆箱に1本入れよう」。大人からすると「それくらい分かるでしょう」と思うかもしれませんが、その「それくらい」が、子どもにとっては大事な一歩だったりします。
大切なのは「できるはず」と決めつけないことです。昨日できていたから今日もできるとは限りませんし、学校でできていても家ではできないこともあります。落ち着いているときはできても、急いでいるときはできないこともある。動けないときは、どこまで小さくしたらできるのかを考えます。そうやって、自分で動けるようになるために、次の一歩を見えるようにしていきます。
早く動いてほしいときほど、声かけは増えていきます。そして強くなっていきます。でも声かけが増えるほど、大人もしんどいですし、子どもも受け取らなくなっていきます。さらに、言われないと動けない形になってしまうこともあります。
そこで、必要な情報を外に出します。学校の朝の準備なら、黒板やカードに順番を書いておく。「連絡帳を出す」「宿題を出す」「ランドセルを片付ける」「1時間目の準備」と、見えるようにしておくのです。言葉の代わりに、残っている形として置いておきます。家庭なら朝の準備表をつくる。文字が難しければ、絵や写真、動画でもいいかもしれません。その子がチェックできる形にするのもいいと思います。
そして、毎回大人が全部言うのではなく、「次は何だった?」と一緒に表を見るようにしていきます。このとき、声かけの役割が変わります。大人が指示を出し続けるのではなく、子どもが自分で確認できるように支える声かけになるのです。「早くして」ではなく「表を見てみよう」。「まだ?」ではなく「次はどれかな?」。この声かけに変わると、子どもも大人の声を「責める声」として受け取りにくくなります。
声かけは、子どもを「理解する」ためのもの
私は、声かけは子どもを動かすためだけのものではなく、子どもを理解するためのものだと思っています。今は何に注目しているのかな。何に困っているのかな。本当はどうしたいのかな。何だったら分かってできるのか。工夫があったらできるのか。こうしたことを知っていくための声かけです。
そうすると、環境の整え方や次の一歩が見えてきます。机の上に余計なものが多いなら減らせばいいですし、手順が見えないなら見えるようにするといいかもしれません。その子に合った方法を、一つずつ試すことができます。
まとめ
ADHDの子に「早くして」が効かない理由は、やる気がないからとは限りません。頭の中にやることが散らかっていたり、何から始めるかが選べなかったり、始める・続ける・切り替えるところでつまずいていたりすることがよくあります。だから必要なのは、もっと強く、もっと何度でも言うことではなく、動き出せる形に変えていくことです。
お伝えしたコツは3つでした。
- 「何に困ってる?」から始める
- 最初の一歩を渡す
- 動ける仕組みをつくる
子どもをなんとか動かそうとしたとき、一度だけ立ち止まってみてください。「なんでやらないの」ではなく、「なんでやらないのかな」と見る。ここから声かけを考えると、関わり方は変わります。大人の焦りやイライラだけが伝わる関わりから、「一緒に困っているところを見つけよう」という関わりへ。それが、ゆくゆくは子どもの自立につながっていきます。
この記事を書いた人
村井 泰志(ハリー先生)
株式会社ひといろは代表・発達支援アドバイザー。元小学校教員(8年)。特別支援学級・通級指導教室などで2,000人以上の相談・支援に携わる。プロフィールを見る →

